新興企業やベンチャーキャピタルの分野において、エクイティ・ファイナンスは重要な役割を果たしています。その中で、シンプルかつ柔軟な方法として注目を集めているのが「J-KISS型新株予約権」です。この記事では、J-KISS(Japan Keep It Simple Security)型新株予約権の概要と、その利用シーンについて解説いたします。
J-KISS型新株予約権は、企業が資金調達を行う際に、将来的に一定の条件下で株式を購入できる権利を投資家に付与する形で発行されます。特に、スタートアップ企業がエクイティ・ファイナンスをシンプルに進めるための手段として設計されています。
J-KISSは、アメリカのSAFE(Simple Agreement for Future Equity)契約に類似した仕組みです。SAFEは、企業価値が確定していないスタートアップに対して、将来的なエクイティの発行をシンプルに合意するための契約で、これを日本の法制度に適合させたものがJ-KISSです。
J-KISS型新株予約権には、以下のような特徴があります。
簡素な契約構造
J-KISSはその名の通り、シンプルな契約形式を採用しており、複雑な条項や詳細なエクイティ評価を必要としません。これにより、スタートアップは迅速に資金調達を進めることができ、投資家にとっても理解しやすい内容となっています。
将来の株式転換
J-KISSは、企業の次のエクイティファイナンスラウンドで株式に転換されるため、発行時点では正確な株価を決定する必要がありません。このため、企業価値が未確定であっても柔軟に対応できる点が大きな利点です。
転換割引とキャップ
投資家は、次の資金調達ラウンド時に、一定の割引率(通常は20%前後)で株式を購入できるオプションを得られます。また、株式の評価額には「キャップ(上限)」が設定されており、企業価値が急上昇しても、投資家は予め定められた上限で株式を取得することができます。
J-KISS型新株予約権は、主に以下のような場面で活用されています。
シードラウンドでの資金調達
スタートアップが初期段階で迅速に資金を調達したい場合、J-KISSはSAFE同様、シンプルな条件で投資を受けることができるため、非常に有用です。
将来のラウンドの不確定要素をカバー
スタートアップの企業価値が未確定な場合、エクイティの評価は非常に困難です。J-KISSは、将来の株式転換という形でこの問題に対応するため、企業価値の急速な変動が見込まれる場合に適しています。
J-KISSは新株予約権であるため、従来はエンジェル税制の対象ではありませんでしたが、令和6年度税制改正により-KISSでの出資額もエンジェル税制の対象に含めることが規定されました。エンジェル税制は、要件を満たす株式の取得時に税制上の優遇措置を受けることが出来る制度ですがJ-KISS型新株予約権の場合、権利行使時に優遇措置を受けられることには留意が必要です。
※2024年4月1日以降に新株予約権を取得した場合が対象とされます。
(経産省HPより抜粋: https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angeltax/index.html)
会計処理においても、上場会社がJ-KISS型新株予約件を保有する場合には時価評価が求められます。具体的な評価方法や会計処理については、公認会計士等の専門家にご相談下さい。
J-KISS型新株予約権は、スタートアップが資金調達を行う際に、簡素で柔軟な手段を提供します。そのシンプルな契約構造と、将来の株式転換により、企業価値が不確定な段階でも活用しやすい点が魅力です。ただし、税務や会計の面での注意が必要であり、適切な専門家のサポートを得ることが重要です。今後、スタートアップや投資家の間で、J-KISSの利用がますます広がることが予想されます。